Sempai, kohai and sensei.

「先輩」と「後輩」。これらの言葉と概念には力がある。先輩を心地よくする力、後輩を窮屈に感じさせる力。

これは必要だろうか？という話。

 

結論を言えば、上手に考え使うべきだ。

 

この上下関係は何から成り立っているのか。それともただ単に名前を呼ぶのが面倒な人にとっての簡単な解決法なのか。この言葉がどう上下関係を形成しているか、それは「一年以上の年の差」。（早生まれの方は一年得していることになる。）

 

直下型の強い上下関係が必要だったのは間違いなく戦時中だ。

部下をコントロールできなかったらその上司は殆どの場合役に立たないと評価されたからだ。上司になることを見据えていた部下たちにも、それは概ね理解できた。

国の意志で始まった戦争の勝敗を、個人の勝手な行動で棒に振ることを恐れた為、信頼の置ける戦略家と国家組織幹部の意見を反映する為にできた上下関係と考えれば「あぁそっか」と納得がいく。

これが根強く残っている国はアジアの韓国、中国、日本だと思うが、実は「先輩」、「後輩」という言葉がなくても、他の海外諸国にも上下関係は存在する。しかしそれは年齢に基づいた上下関係ではなく、能力に見合ったその人の地位である。だから単純に「Boss」とか「Teacher」、「Trainer」など、名前の手前に付け加えて呼ぶ。僕もポーランドに来て初めは「Trener Kotaro」（波蘭語で「トレーナー浩太郎」）と呼ばれていた。その後僕はなぜかそれが気に入らず、名前で呼ばれるようになったのだが。今考えると、それはポーランドの柔道選手やコーチたちといち早く打ち解けるための手段の一つだったのかもしれない。コーチたちは「トレーナーと呼ばせようか？」って提案して来たけど拒否したのを覚えている。選手たちとは歳も近いし、フレンドリーに教える方が技の指導もスムーズにいった。第一は、彼らから僕に対する敬意を感じることができたから、「それ以上気を遣わなくていいよ、素の姿を見せてくれ。」というのが僕の本音だった。外国人（日本人）コーチの欲しそうな態度や、技の動きを演出しようとする選手も中にいたからだ。僕も彼らの素の姿を鍛えなければだめだと思った。加えて僕は、彼らの各自の柔道スタイルに憧れることもあるし、一人一人を対象に純粋に人として尊敬している。

 

さて、話を戻そう。

年齢を基にした「先輩後輩」といった上下関係が常に優劣を決めるという考えははっきり言ってナンセンスで、ある部分不便だ。下さなければならない決断が先輩のその特定の「年齢」によって最高のものとなるのなら話は別だが、そんなことは稀だしそれを話し合うときは後輩も対等であるべきだ。

僕は自分の仕事に関わった専門分野や得意分野では持論を展開して柔道指導をするが、それ以外の時間は極めて選手たちと対等で、互いに心地よい友好関係を築きたいと思っている。年下の選手たちに教えてもらうことも多いからだ。

 

一方が多く年をとっているからと言ってその方が必ずしも全ての場面において有能だとは限らない。そう言った場面で若い方がよりいい意見を持っている時、この関係性はあからさまにその効力をマイナス方向に発揮する。お互いの良いところを知り、互いに敬うことが出来る関係であれば、自然と譲り合って対等に話せる。

 

僕の心体の中には先輩に対する恐怖心が植えつけられている。それは過去に経験したパワハラのせいだ。どんなに環境が良くてもそういう年上は必ず一人か二人いる。当時それに屈した自分が一番悪いのだが、今このトピックについて書いた理由は、それがコンプレックスで拭い去りたいからだ。

もう一つの理由は、何かを基準にして物差しで測ったとき、自分より格下の者の素直な意見に対して誠意を持ち、何かを学ぶ姿勢が自分にあるか、もう一度確認したかったからだ。

そういった自戒の意味を込めて今回は終わりにする。